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「近代哲学における人間観の転換 ―― デカルトからカントまでの議論を手がかりに」

人間の認識能力の限界と理性の役割 ―デカルトとカントの比較を通じて―

近代哲学において、人間の認識能力をめぐる問題は中心的なテーマの一つであった。本稿では、デカルトとカントの議論を比較検討しながら、「人間の認識能力にはどのような限界があり、その中で理性はいかなる役割を果たすのか」という問いについて考察する。

デカルトは『方法序説』において、理性の普遍性と確実性を強調した。彼は「我思う、ゆえに我あり(cogito ergo sum)」という命題を確実な認識の出発点として設定し、理性的な思考によって確実な知識を獲得できると考えた。デカルトにとって、理性は人間の本質であり、それを適切に用いることで真理に到達できるとされた。

一方、カントは『純粋理性批判』において、人間の認識能力に本質的な限界があることを指摘した。彼によれば、人間の認識は感性と悟性という二つの能力によって成立する。感性は時間・空間という形式のもとで対象を直観し、悟性はカテゴリーを通じてそれを概念的に把握する。しかし、これらの認識能力は「物自体」を認識することはできず、現象としての対象しか把握できない。

両者の立場を比較すると、以下の重要な違いが浮かび上がる。第一に、認識の確実性に対する態度である。デカルトは理性的思考による確実な認識を追求したのに対し、カントは人間の認識能力の構造的限界を認めた。第二に、理性の役割についての理解である。デカルトは理性を真理到達の手段として捉えたが、カントは理性を認識の制約条件として理解した。

このような違いは、現代においても重要な示唆を与える。科学技術が発展し、人工知能が台頭する現代において、人間の認識能力の限界を自覚しつつ、理性の適切な使用を考えることは極めて重要である。カントの指摘した認識の限界は、現代の科学的認識においても本質的な制約として働いているのではないだろうか。

また、デカルトの理性重視の姿勢は、論理的思考の重要性を示唆する一方で、感性や直観の役割を軽視する危険性も含んでいる。現代において必要なのは、理性の力を信頼しつつも、その限界を自覚し、感性との調和を図る態度ではないだろうか。

結論として、デカルトとカントの議論は、人間の認識能力の可能性と限界について、相補的な視点を提供している。理性の力を信頼しつつも、その限界を自覚することは、現代を生きる我々にとって重要な課題である。今後は、AIなど新しい認識手段との関係も視野に入れながら、人間の認識能力について考察を深めていく必要があるだろう。