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【レポート本文】

　私は本講義の中でも特に「歯学研究の進歩と社会貢献」に興味を抱き、その中でも再生医療が歯科医療にどのような可能性をもたらすのかという問いを立てることにした。近年、幹細胞を用いた再生医療や組織工学の急速な発展により、歯の欠損を補うだけでなく、欠損した組織を再生させることが現実味を帯びてきている。失われた歯や歯周組織を新たに「作り出す」ことが可能になれば、口腔機能の回復や生活の質（QOL）の向上だけでなく、従来の義歯やインプラントに頼りきりだった治療体系にも大きな変革がもたらされるだろう。そこで本レポートでは、再生医療が歯科に与えるインパクトとその社会的意義について、講義で学んだ各専門分野との関連を踏まえながら考察する。

　まず、口腔解剖学・口腔生理学の観点からは、機能的に歯周組織や硬組織（エナメル質や象牙質）を再構築するためには、歯を支える歯槽骨や歯肉、歯根膜といった周囲組織の複雑な構造と力学関係を理解する必要がある。歯周組織や歯根膜では複数の細胞が協調的に働き、咬合力を適切に分散している。このような精密なメカニズムを再生によって再現するには、幹細胞がどのような刺激でどのように分化し、どの程度まで生理機能を保持できるかを見極めることが重要となる。

　また、口腔病理学の視点では、細胞レベルで病的変化が起こった場合、その異常をいかに早期に発見し、修復過程を正常化に導くかという課題がある。たとえば歯周病学では、歯周組織の炎症による骨吸収や組織破壊の進行を食い止め、組織の再生を促す技術が注目されている。幹細胞を含む歯髄由来の細胞を用いて破壊された組織を置換・修復し、さらに生理的な構造を取り戻す研究が進められており、その成果は保存修復学や補綴学にも波及している。将来的には単に欠損を「埋める」治療から、生体が本来持つ修復能力を最大限に引き出す治療への転換が期待される。

　こうした再生医療の発展は、社会貢献という観点からも大きな意義を持つ。一つは超高齢社会におけるQOL向上への貢献である。高齢者は歯の欠損や歯周組織の喪失が多く、摂食嚥下や会話など日常生活に直結する機能を損ないやすい。再生医療によって自身の細胞を利用した、より身体に負担の少ない治療法が広がれば、健康寿命を延ばし、医療費負担の軽減にもつながる可能性がある。また、小児歯科学領域でも先天的に歯が欠損しているケースや外傷などに対して応用が期待でき、発育途上の子どもたちにとって身体的・精神的負担が少ない治療手段となるだろう。

　さらに、研究開発の面でも幹細胞研究やバイオマテリアルの開発は、学際的な連携を促進し、新たな産業創出や医療制度の整備にも波及効果をもたらす。公衆衛生学的視点からは、歯科領域における再生医療を社会実装する際、費用対効果や保険制度との整合性、そして一部の先端治療が特定の人だけに限られないようにするための倫理的配慮など、さまざまな課題が浮上する。歯学における倫理の面からみても、患者の生命や身体の一部に積極的に関与して治療を行う再生医療は、高い説明責任とインフォームド・コンセントの重要性を改めて強調する分野である。

　以上の考察を踏まえると、「再生医療は歯科医療にどのような可能性をもたらすのか」という問いに対する答えは、単に歯の欠損を補う手段の拡充にとどまらず、歯科医療のパラダイムシフトにつながる大きな可能性を秘めているといえる。多様な専門分野が連携して取り組むことで、患者にとっては身体的・経済的負担を軽減しつつ、より生理学的に適合した治療が実現するだろう。その一方で、技術革新と臨床応用のバランスを取りながら、安全性や倫理面にも十分配慮する必要がある。

　結論として、本レポートで取り上げた問いは、歯科医療が再生医療をどのように取り入れ、人々の口腔健康やQOL向上に貢献していくかという重要性を浮き彫りにした。歯科治療が「欠損を補う」から「組織を再生する」へと変化しつつある今、新たな治療法の確立には基礎研究と臨床との橋渡しが欠かせない。同時に、社会実装に向けてはコストや倫理、医療アクセスの平等性など多面的な課題に対処する必要がある。これらを踏まえ、私たち歯科医療従事者や研究者は、科学的根拠や患者中心のケアをより一層重視しながら、再生医療の発展を通じて社会に貢献していく使命を担っていると考える。