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私が住む地域では、近年、高齢化と後継者不足が原因となり、耕作放棄地が増加している。この状況を象徴する事例として、家の近くにあるかつては稲作が行われていた田畑が数年前に放棄され、今では雑草と低木が生い茂っている様子が挙げられる。農業機械の導入が遅れたことや、人手不足、さらに収益性の低さが重なった結果、地主の方は継続を断念したと聞いている。こうした事例は、農業全体の担い手問題とともに、地域の景観悪化や防災上のリスクを引き起こす要因にもなり得る。雑草が伸び放題になると、害虫や小動物の棲みかとなり、周辺の農地にも影響を及ぼす可能性があるため、地域社会や環境とどのように結びついているかを考えるうえで、耕作放棄地の増加は重要なテーマと言える。

本講義で学んだ諸分野の視点から、この事例を考察してみたい。まず植物生産学では、作物栽培には適切な土壌環境と生育管理が必要だが、耕作放棄地では土壌肥沃度が低下し、雑草が蔓延してしまい、生産性を回復するためのコストが大幅に増加する可能性が高い。土壌学の視点からも、長期間放置した土壌は物理性や化学性が変質し、微生物の多様性や栄養塩類のバランスが崩れる恐れがある。その結果、再び農業を始めようとしても、土壌改良に時間と費用がかかるという問題が生じる。

動物生産学の観点では、畜産との連携が耕作地の維持や資源循環に寄与し得る。たとえば、農作物残渣を家畜の飼料や敷料に利用し、家畜の排泄物を有機肥料として田畑に戻すことで、植物生産と動物生産の間で循環型の資源利用が期待できる。しかし、高齢化や担い手不足が進む中、このような連携を実行するには、労力や知識、設備投資などのハードルが依然として高い。

環境農学の視点からは、耕作放棄地の増加は景観維持や生物多様性の保全に影響を与える。一方で、管理されていない放棄地が新たな生態系を形成して希少種を呼び込む可能性もあるが、雑草や外来種が広がって在来種の生息環境を脅かすリスクも否定できない。そのため、環境保全に配慮した適切な土地利用が求められる。

農業経済学の観点では、耕作放棄地が広がる背景には、農産物価格の変動、輸入農産物との競合、設備更新や人件費の負担など、数多くの経済的要因が複雑に絡み合っている。都市部へ後継者が流出することにより、農業を継続するインセンティブが乏しくなる状況が各地で見られる。いったん放棄された農地を再生するのは容易ではなく、経済的リスクを伴う面が大きい。

このような問題を解決し、耕作放棄地を再生するには、地元農家だけでなく自治体、企業、都市住民など多様な主体が参加する多角的な取り組みが重要だ。具体的には、農家のコスト負担を軽減する補助金や支援策、新規就農者への技術研修や融資制度の拡充、企業が農地を借り受けて大規模に展開するアグリビジネスモデルの導入などが考えられる。さらに、動物生産と組み合わせた循環型の農業システムを構築するために、地域内外のネットワークを整備し、大学や研究機関と連携して土壌改良技術を開発することも有効である。

環境・景観の保全を視野に入れるなら、農地の一部を生態系保全地域として計画的に維持しながら、エコツーリズムやグリーンツーリズムと結びつける試みも考えられる。地域ブランドを確立し、高付加価値の農産物を生産・販売することで、農家の収益向上につなげる方法も重要だ。

私自身、これらの事例や背景を学ぶにつれ、耕作放棄地の問題は単に農業の生産性だけでなく、地域コミュニティの活性化や環境保全にも密接に結びついていると感じている。今後、技術革新や政策支援のもとで、多様な主体が協力して知恵を出し合い、農学の知見を総合的に活用していくことが不可欠である。耕作放棄地が地域に新たな価値をもたらし、持続可能な農業の発展につながるよう、引き続き取り組んでいきたいと考える。

＜引用・参考文献＞
・農林水産省「耕作放棄地の現状と対策」（2021）
・総務省統計局「農家数に関する統計」（2020）